夏を送るサイダーと俺 第一章総集編

夏を送るサイダーと俺 第一章総集編

皆さんこんにちは!かものかもです!今回は「夏を送るサイダーと俺」の第一章が完結したので
第一章総集編として投稿します!19時30分に投稿と言いながらも、フライングしてしまいました(笑)。
第二章の一話目は今日の19時30分に投稿します!

 

夏を送るサイダーと俺

 

第一章

思い出のタバコ

1.
「ぐぁぁぁ!胸が…ってなんだ、夢か。」
どうやら、警官に撃たれて死んだのは夢だったらしい。
時計を見ると、13時を過ぎたころだった。特にやることがないので、腕枕をつくり二度寝をしようとした時だった。
「ねぇ、あんたいつまで無視する気なんだい!」
突然の怒鳴り声により眠気が吹っ飛んだ。顔を上げ、まぶしさに目を細める。そこにいたのは
「ったく、最近の若もんは…。」
と不機嫌そうにこちらを見ている白髪の老婆だった。
「朝早くからどうしたんですか?おばぁちゃん。」
「あたしはおばぁちゃんなんかではない、お姉さんと呼びなさい。」
俺の態度が気に入らなかったのか、ますます不機嫌な顔になった。
「いや…それにはちょっと無理が…。」
「あんた、個々の店番だろ?」
「そうですけど、なにか?」
「タバコ1箱、よこしな。」
ぶっきらぼうに言うおばぁちゃんの口から出た言葉は、俺が忘れていた全てを思い出させた。
「あぁ、最悪。ほらよ。」
後ろの棚からタバコを1箱取り出し、カウンターに置く。脱いでいたサンダルを履き、立ち上がろうとしたとき、老婆がこちらをじっと見ていることに気が付いた。
俺の態度の変わりように驚いたのだろうか?
「んだよ。まだなんか欲しいのか?それともそのタバコが気に入らねぇってか?」
俺の態度はひどいと思われるだろう。実際自分でもひどいと思う。でも、こうじゃなきゃやってけない。こうでもしない限り、自分が壊れる。
「あんた、あたしの孫にそっくりだよ…。」
老婆の目はさっきとは全く違う目だった。機嫌の悪さが混じった燃えるような目ではなかった。一人置いてきぼりにされた犬のような目をしていた。
「あぁクソッ!」
カウンターの端に置いてあった陶器の招き猫を地面に叩きつける。大きな音とともに破片が飛び散る。もともと自分から進んで請けた仕事ではない。
好きで続けてるわけでもない。ただ一つ、「やめちゃだめだ。」という思いで続けているこの仕事。始めたばかりだけど、きつくて泣きそうだ。
「おい、ばぁさん、そろそろ電車が来るはずだ。駅まで送ってくよ。」
「いいよ…あたしゃ、一人で行ける。」
「ひとりで行けるって、そんなこと言いながらどっか行く気だろ。」
どうやら図星だったようで、老婆はうつむく。
「だって…。」
年齢にはそぐわない言葉だ。でも、言いたいことは分かる。この老婆が初めてじゃない。これまでに2人の中年男性と、1人のおばさんを送った。
そう、俺の仕事は死んだ人が転生するまでの面倒見と見送りだ。死んだ人たちは、電車に乗って次の人生へと向かっていく。
「さぁ、ばぁさん。散歩がてら、行くぞ。」
店を出て、老婆の横に立つ。さっきまでは座っていたからわからなかったが、老婆は腰が曲がっていてとても小さく見えた。おまけにやせ細っていて小学生ぐらいの大きさだった。
やがて、重い足を引きずるように老婆が歩き出した。少し心の準備ができたところなのだろう。
「駅に行くまでの間さぁ、ばぁさんのこと聞かせてくれよ。」
乱暴にしないとやってらんない。でも、こういう寂しそうな人たちを見るとそれができなくなる。だから老婆の最初の態度が一番ありがたかった。
「あたしにはな、孫が一人いたんよ…。」
「あぁ、さっき言ってたな。」
この老婆もこれまでに自分が送ったやつらと同じだ。しんみり語って、最後には無理やり笑って電車に乗っていく。このままじゃ俺、死ぬかもな。
「そんでな、ものすっごいべっぴんさんなのよ。年は…あんたと同じくらいだったけな。とにかくきれいなんよ。
でもずっとカリカリしておった。あんたみたいにな。」
「それはどうも。」
「別にほめとらんよ」
「いや、冗談だから…。そうか、で?その孫とはどうだったんだ?」
「いや、それが…。」
これも毎回同じパターンだ。ここで悲しい話になる。まじでこの役誰かに変わってほしいんだが。でも、今回は少し違った。
「それが、どうしたんだよ?」
「1年くらい会ってなかったんよ…。だから、孫がお嫁に行けてるか心配で心配で…。」
「へぇ…意外と優しいばぁさんなんだな。」
これは心から思ったことだった。死んでも孫のこと気にするなんて相当なものだ。
話しているうちに駅はすぐそこまで来ていた。
「最後になるけど、ばぁさん、自分の名前覚えてる?」
「えぇっと…….。何だったけな?」
「やっぱり覚えてないよな。」
正確には「わからない」だ。この世界には、「名前」というものが存在しない。
「もう電車来てるな。最後にタバコ吸うか?」
「いらん。もし、もし孫がここに来たら伝えておいくれ。『助かった』と。」
「りょーかい。じゃぁな。」
老婆は電車に運ばれていった。
「孫がどんな人かわからないんだけどなぁ。」

2.
タバコ屋に戻ると、日はすっかり暮れていて月が顔を出していた。この世界は時間の流れが速いのだろうか。
ばぁさんを近くの駅に送ってきただけだ。かかっても1時間というところだ。昼が夜に変わるのは理解できない。
そんなことを考えながら店の中に入り、カウンター越しに遠くの夜空を見る。さびれたシャッター
店のシャッターを閉める必要はない。この世界には、自分とたまに来る死者しかいない。だから、泥棒などの心配はない。
さっきのばぁさんとのやり取りを思い出し、俺は感傷に浸りまくっていた。
「いってぇ!」
雰囲気をぶち壊したのは、地面に散らばった招き猫の破片だった。
「こいつ、執念ぶけぇな…。」
散らばった招き猫を掃除し、タバコの在庫を確認する。といってもなぜだかタバコは自然に増えるため、確認の必要はない。
この世界は不思議なことだらけだ。タバコは自然に補充されるし、転生待ち死者はどこからか湧いてくる。
いつ死者が来てもいいように、カウンターで腕を枕にして寝る。シャッターを閉めない理由の一つでもある。
「誰でもいいから…。仲間が欲しいなぁ…。」
俺のつぶやきは、儚く虫たちの合唱にもみ消されていった。
*    *   *
「ねぇ!いつまでぐーすか寝てるつもり!?」
突然の罵声&怒鳴り声に起こされ、ムッとなる。どうやら寝落ちしていたらしい。
「てめぇ…人の気持ちい睡眠を邪魔しやg…JK!?」
目の前の光景に眠気が吹っ飛び、目が飛び出そうになる。
「ほ…本物のJK!これまでずっとジジババばっかりで….。マジ天使…。」
「ちょっと!さっきからぶつぶつと、独り言ばっかり!何その目!?こっち見ないでくれる!?」
「いや、俺を呼んだのはあんただろ…。」
茶髪のボブヘアにセーラー服、持ち手に腕を通してリュックの代わりに背負っているサブバックそして、スニーカー。
これらは目の前の女性がJKであることを
示していた。
「はぁ…。ったく、何の用だ?こんな早朝に…。」
時計の針は4時を示している。
「別にいつだっていいじゃない。そんなことより…。」
はい、と言わんばかりに出された手のひらに自分の手をのせる。
「はぁ!?あんた犬?タバコが欲しいって言ってるでしょ!」
「よく初対面の人にそんなこと言えるな、おまえ…。そんなんじゃモテないぞ?」
「やかましいっつーの!」
JKはそう言い捨ててすたすたとどこかへ行ってしまった。睡眠を妨害されるのはこれで二回目だ。俺の唯一の心の休憩なのに…。
「ふぁぁ、やっと寝れる。」
大きなあくびをし、自分ので腕を枕にして目をつむる。いつもだったらこのまま寝れるのだが、先ほどの怒鳴り声で完全に目が覚めてしまったようだ。
「はぁ、あのJKを探すか。だりぃ。」
ぶつぶつと独り言をつぶやきながら立ち上がり、店を出る。外は快晴だった。
砂浜、駄菓子屋、スナック、カフェなどの現代の女子高生なら行きそうな場所を探したが、あのJKは見当たらなかった。
「なんだよ、どこにもいねぇじゃんか。….ん?」
自分の当てが外れたことにいらっとしつつ帰り道を歩いていると、不審な人物を見つけた。
セーラー服の少女が、俺の店のカウンターから身を乗り出して中をのぞいている。
「アイツ…。」
気づかれないように足音を消しながら不審者に近づいく。
「おい!」
「ひゃぁっ!」
いきなり後ろから声をかけられた不審者は飛び上がり、その勢いで店の中に転がっていった。
「だ…大丈夫か?」
思わぬ結果に恐る恐る店の中をのぞいてみる。いろんなものが散らばっていた。
「いててて…。はっ!べべ..別に何もしてないから!」
顔を真っ赤にして慌てたように言い訳をする少女。さっきのJKだった。
「ご無事で何より。…店、ちゃんと片付けろよ。」
「お、おまえか!驚かすなよ!こうなったのもあんたのせいだからねっ!」
なんと醜いことに、人のせいにし始めた。しかし、店の中をかたずけようとしているので自分も店の中に入り、手伝うことにした。
「あ、ありがと…。」
「へぇ、素直なとこもあるんだな。」
「どうだっていいだろ、そんなの!」
つかんでいたティッシュの箱でたたいてくる。その手首にはいくつかの切り傷があったが、見なかったことにした。
「別に、なんか盗もうとしてたわけじゃないから。」
散らばっていたものが片付き、一息ついた時のことだった。JKがきまり悪そうに口を開いた。
「タバコを見てたんだろ。わかってるよ。」
俺の店のタバコはなぜかみんな欲しがっていた。これまでの死者は大人たちだったから、生前はタバコを吸っていたのだろうとしか思っていなかった。
しかし、このJKも欲しがるとなると何か特別なタバコなのだろう。もう一つ不思議なことに、タバコに火をつけるライターはこの世界に自分が持っている一つしかない。
ここを訪れる死者が全員タバコを吸うとなると、自分が持っているライター一本で足りるのか、正直不安だった。そして自分はいつまでこの仕事をしないといけないのだろうか。
そう考えていると、自然とため息が出る。
「んだよ、ため息なんかついて。」
「この仕事、きついんだよ。」
「ふぅん。」
この時のJKの顔はなんだか懐かしく感じられた。

 

いかがだったでしょうか?お次は第二章です。秋が終わるまでには「夏を送るサイダーと俺」を完結させなければ…。
それでは第二章の一話目でお会いしましょう!

この記事の作者
どうも、かものかもです。 このブログでは主に自作小説とゲームの記事を投稿しています。自分の頭の中にある「妄想world」を世界に発信したいという思いから始めました。言い換えれば、このブログは僕の脳内です(笑)。一話ずつ投稿していくので楽しみにしていてください!記事を読んで「感動した!」、「面白かった!」などの感想コメントおまちしてます!もちろんアドバイスなどもウェルカムです!

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